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路上記・37「脳は100歳でも成長する。常に前向きで、欲求を持ち続けること、睡眠が脳の健康には大事」

 11月12日の週からようやく平年並みになった気温ですが、天野はこの時期が一年で一番に好きな季節です。早朝のまだ暗いいうちに家を出て、帰宅するのも月明かりが映える時間帯です。朝も夜もツンとした冷気が顔にあたるのがいいですね。
 
 仕事は一日中、ほとんど身体を動かす内容ですから、パソコンの前に座ってじっくり考えごとをする時間はありませんが、それでも常に動きながらブログの内容を考えています。もちろん、何か考え事をするには暑い夏以外が適していると思うのは皆、同じだと思います。
 
 物事を考えられるのは脳があるからです。こうしてブログを書けるのも脳が正常に働いて、目や手が正常に機能しているからできることです。天野は現在、肉体労働で生活していますので、本当に身体については敏感です。手足の指一本、怪我しても、風邪をひいても仕事ができなくなってしまいます。だから、健康には人一倍に気を使います。そのように意識できるのも脳が正常に機能しているからです。
 
 今まであまり内面的なテーマを取り上げてきませんでしたので、今回は少し方向を変えてヒトの脳について考えてみます。ヒトに限らず生物は脳を損傷すると生きていくのが非常に困難になってしまいます。とても大切な中枢神経です。
 
 そして、この脳には脳梗塞、くも膜下出血、脳炎、アルツハイマー病など他の身体機能同様に多くの病気もあります。やはり、他人はもちろん、自分を自分として意識できなくなる認知症は恐い病気です。ですから、脳の健康にも十分に配慮しなければいけません。
 
 もちろん、天野は一介の肉体労働者です。医者でも脳科学者でも解剖学者でもありません。ですから、「ヒトの脳はここまで分かった、こんな機能なんだ」などと偉そうに書くつもりは毛頭ありません。あくまで先生方の研究や体験を通して発表された本を拝読し勉強する程度です。
 
 脳に関する本は本当に多いですね。最近に読んだのは「50歳を超えても脳が若返る生き方 加藤俊徳著 講談社+α新書」です。加藤先生は米国ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病などを研究された脳内科医です。帰国後はMRI脳画像を用いて胎児から高齢者まで1万人以上を治療してきました。
 
 加藤先生は本の中で以下のように書いています。まず、脳の神経細胞は1000憶個以上あり、脳は年齢に限らず、100歳でも成長する。使えば使うほど成長するというのです。高齢化社会の日本ですが、その中で女性が長生きなのは男性と比較し、あれがしたい、これがしたいという欲求が高いからで、男性も定年を迎える前、50代で働いている頃からやりたいことなど適度な欲求を持ち続けることが、脳の健康を左右していくといいます。
 
 次に脳の潜在意識を高めていくには、何事も前向きに考えていくことが重要で、ネガティブな気持ちは脳の成長を抑制してしまいます。また、思考が停止するとストレスがたまり、鬱病や認知症の原因にもなります。そして、未来に希望を持つことが重要であると述べています。
 
 「脳が若返り続ける人たち」の一人には、箱根駅伝で四連覇を成し遂げた青山学院大学陸上部の原晋監督の脳分析結果をとりあげています。1思考系、2伝達系、3運動系、4感情系、5理解系、6聴覚系、7視覚系、8記憶系の各脳番地の中で、原監督は左脳の理解系が発達しているから強いチャレンジ精神を持ち続け、監督として戦術を考えることに長けていると分析しています。監督として駅伝でチームが勝つためのアイデアを考え、同時に常に挑戦していくためには、物事を理解する能力が必要だということです。


脳番地1 (2)

小説「海に沈む空のように」第37回・いつもと変わらない福井の日常

前回までのあらすじ
 昭雄を襲った谷川恭二は平成九年に信用金庫で強盗殺人事件を起こした会社経営者・谷川淳一の弟だった。恭二は兄の淳一に関する栽培に不満を持ち、裁判官だった昭雄の父親・雄二郎を逆恨みしていた。息子が健在だと知り、福井まで昭雄を追いかけてきたのだった。しかし、福井県警の刑事たちの警護で、昭雄が怪我をすることはなかった。

 志賀昭雄に気がついた二人は、黙ってゴミ袋を持ったまま給湯室から出ると左側のエレベーターの前に立った。三基あるエレベーターのうち左のエレベーターは業務用の運搬も含まれている。二人はそのまま下の方に降りていった。

 昭雄はオフィスのドアを開けると中に入った。自分の席に着き、日経新聞、朝日新聞、福井新聞に目を通す。やはり、昨日の事件のことが気になったのだ。「越前海岸マラソンで暴行事件」の記事を取り上げていたのは福井新聞のみだった。

 昭雄はお茶を炒れるために給湯室に向かう。まだ、ゴミを回収し終えていなかったのか、清掃員が戻ってきていた。
「おはようございます」
 昭雄は清掃員に声をかけた。
「おはようございます」
 清掃員は頭を下げた。

「あれ、さっき、いましたよね」
 昭雄がポットにお湯を入れながら聞いた。
「ええ、先ほどはすみませんでした」
 わけもなく清掃員が謝った。
 昭雄は少し不思議に思った。
「今日も寒いですね」
 清掃員が独り言のように言った。

「そうですね。雨にならなきゃいいんですが」
 昭雄はポットにお湯が一杯になるのを確認した。
「昨日はいい天気でしたね。福井では珍しい。いつもあなた、声をかけてくれて。清掃員なんて孤独なもんですから、うれしかったですよ」
清掃員はゴミ袋にゴミを回収し終えた。
 昭雄はもう一人の若い青年のことを聞かなかった。

「今日も晴れるといいですね」
 昭雄が青年に笑顔を向けた。
「そうですね」
 若い清掃員が頷く。
 
 昭雄がいつも会社に出勤した朝に会う清掃員には、何かと声をかけては世間話をしていた、話す内容は時事的なことが多かったが、その清掃員がなぜここで仕事をしているのかを聞くことはなかった。清掃員には以外な人が働いていることを以前に東京のバンド仲間から聞いたことがあったのだ。

 例えば、プロのミュージシャンでも清掃のバイトをすることがあると、バンド仲間が話していたことを思い出した。通信社に勤めながら昭雄たちと一緒バンド活動をしていた戸田典夫の友人には、プロのミュージシャンがいた。高田修という男だ。彼はピアノを弾いていたが、主に広告関係で音楽の作曲をしていた。有名なミュージシャンのバンドにも参加したことがあるという。
 
 高田はそれでも、音楽家として有名になることはなかった。もちろん、CM曲はそれなりに需要はあったから、一般のサラリーマンよりは稼ぎはいい方だった。妻との間にできた一人息子はアメリカの音楽大学に留学させたくらいだ。妻もレコード会社で働いている音楽一家だから、息子も音楽関係の仕事に就かせたいというのが、高田の夢でもあった。

 そんな話を戸田から聞いていた昭雄も、自分の娘・陽花をどこか海外に留学させてやりたいと考えていた。昨今は世界で何が起こるか分からない情勢が続いているから、海外、海外と、あまりウキウキした気分ではいられないが、それでも帰国子女は、日本だけで育つ人事よりも就職面などでも有利な風潮が日本にはある。

 音楽関係に進まなくても、英語など留学先の語学を身につけるだけでも、これから陽花が社会に出て生活していく上では有利な条件となる。一度、高田が昭雄たちの練習するスタジオに遊びに来たことがあったが、高田の陽気さに、なるほどとなぜか納得したものだった。昭雄はふとそんな高田の笑顔を思い出した。

「ここの仕事は長いのですか」
 ふと我に返り、昭雄が目の前の清掃員に聞いた。
「いえ、自分はまだ半年ほどですかね」
「何人で清掃しているのですか」

「このビルは大きい方だから、夜の清掃も含め六人くらいですかね」
「いろいろ大変ですね。朝、早いし」
「ま、この年になったら清掃くらいしか仕事もないし。身体を動かすにはいい運動にもなりますよ。一日、三時間や四時間のバイトだからね」
 そう言うと清掃員は笑みを初めて浮かべた。

 昭雄はそのまま給湯室からオフィスの方に向かい、ドアの前でカードをかざすとドアを開けた。
「越前海岸マラソン」の翌日も、いつも通りに仕事が始まったが、昭雄に上司から昨日の襲撃事件を聞かれることはなかった。夕方になり残業することもなく、昭雄は会社を出ると車に乗り、アパート近くのスーパーに寄った。

 入口付近で買い物籠を手にすると、そのまま生鮮コーナーの前に向かう。ほうれん草一袋を手にすると、そのまま籠に入れる。次にネギを籠に入れる。そして、バラの人参を数本、手にする。今日の人参は幾分、いつもと比べると細いような気がした。それでも栄養には欠かせない野菜だ。

 夕方のスーパーは買い物客で賑わっている。四方から「いらっしゃーい」の大きな声が昭雄の耳に響いてくる。客はほとんどが女性だった。
 昭雄のような男性客はほとんどいない。昭雄は酒類コーナーに行くと、缶ビールを三本、籠に入れた。毎日に飲むビールを欠かしたことはない。福井に来てから酒量は増えているかも知れない。ふと、昭雄はそんなことを思った。


スーパー2 (2)

たにしの独り言33「写真が見せるサイレントドラマ」

 若い頃から写真は好きで、写真集はよく見ていました。写真集には報道写真や風景写真、動物写真から女優のヌードやアイドルの写真集など、さまざまなものがありますが、好きな写真家の一人にブラジルの報道写真家であるブラジルのセバスチャン・サルガドがいます。
 
 代表的な写真集「THE WORKERS」には金山で働く人々や、石油を採掘する人々など世界の労働者たちの姿が撮影されていて、独特のアングルによるその写真は見るものを圧倒させる迫力があります。アフリカの飢餓に苦しむ人々やルワンダの内戦の状況など、世界のあらゆる状況をカメラに収めてきたサルガド。「神の眼」を持った写真家とも呼ばれる人物の撮影する写真は、深く人々の心を動かし続けてきたのです。
 
 しかし、ルワンダの内戦を撮影した頃に病に倒れた彼は故郷のブラジルに帰り、父親から譲り受けた農園の再生に乗り出すのです。以降、サルガドの撮影する写真は地球保護を視点とするものに変化します。
 
 以前におこなった講演でサルガドは、次のように述べました。
 「私が農園を譲り受けた時に、木々はほとんどありませんでした。そこで250万本のさまざまな木々を植え育て、10万トンの二酸化炭素を隔離しています。私は自分におこった災いをきっかけに、生態系を再生しました。このモデルは世界中で広められるのです」(セバスチャン・サルガドTED2013「写真が見せるサイレントドラマ」)

サルガド2 (2)

路上記36「11月初旬でも東京で夏日。異常気象の日本、やはり気になる緊急事態と災害対策、そして戦争の記憶」

 11月10日、東京は最高気温が25度と発表されるなど(実際は25度以上)夏日を記録しました。例年と比較すると10度も高くなるなど、立冬を過ぎても異常気象が続いています。12日の週の気温は例年並みになるようですが、2月までの気温は北日本を除く全国で高めが多くなると予想されています。

 海外では9日にヨルダンの観光地で土石流が発生し3700人が緊急避難しました。毎日とはいいませんが、断続的に世界のどこかで地震は発生しており、地球規模でいつ、何が起こるか分からない余談を許さない状況が続いているといえます。以前には日本では地震が増える秋頃に防災訓練が行われることが多かったですが、地震活動期にある現在は、防災は日々の心得と変わったのです。

 8月に発売されベストセラーになった本ですので、ご覧になった方も多いと思いますが「自衛隊防災BOOK 地震、台風、豪雨に役立つ!危機管理のプロ直伝のテクニック100」(マガジンハウス社)には、様々な緊急事態にどのように対応すべきか、自衛隊の危機管理ノウハウをイラストを交えて分かりやすくまとめてあります。

 例えば地震発生関連では、断水に備えお風呂の水は半分は残す。地震でエレベーターが止まったら、全床のボタンを押す。電車に乗っていたら進行方向に近い出入り口のバーにつかまる。災害発生でボートが転覆して海などに落ちた場合は、ズボンやシャツ、ペットボトルを浮袋にする。

 自宅で停電した時は懐中電灯にナイロン袋を付けてランタン代わりにする。緊急時に自分の電話は使えなくなった場合は、無料の公衆電話を使う。非常食には「かんぱん」と「板チョコ」が少量でもエネルギーに変わりやすい。缶切りがない場合には、缶の蓋をコンクリートなどにこすり、側面を押すと缶が開くなどの方法が紹介されています。
 
 また、東日本大震災や今年の7月に四国や広島県で発生した西日本豪雨では「まるで戦場だった」という自衛隊員の発言を聞きましたが、災害が発生した場合に日本はいつ、どこで戦争と変わらない悲惨な状況に追い込まれるか分からない環境にあります。(被災された方々の一日も早い復旧を祈念します)。戦争で人間がどのような状態になってしまうのかを理解しておく上でも、天野は戦争に関する記録を読むことが多いのです。
 
 最近では「ペリリュー 楽園のゲルニカ」(武田一義、平塚柾緒=太平洋戦争研究会 白泉社)を読んでいます。現在、5巻まで発売されている漫画ですが、太平洋戦争中のペリリュー島(現在のパラオ共和国)で行われた、日本軍とアメリカ軍の戦争を描いています。「ペリリュー戦」については書籍や映画化された作品も多いのですが、漫画化は「ペリリュー 楽園のゲルニカ」が初めてだと思います。それも漫画がいわゆる戦争からくるイメージの劇画タッチの漫画ではありません。どこかのキャラクター商品かと思うような、親しみやすい人物たちで作画が構成されているのです。
 
 漫画をご覧いただくと分かりますが、女性も読みやすい戦争漫画だと思います。戦争で行われる人間同士の醜さや悲惨な状況も目をそむけずに読むことができます。そして、戦争の実態をじっくり把握することできるのです。
 
 5巻では飢餓に苦しむ日本軍のアメリカ軍の食料争奪についての様子や、アメリカ軍によって生き埋めにされた日本兵の救出などが描かれています。食料争奪に成功した日本兵は「今日、食べるものがあてがわれる、明日も明後も、1週間後も・・・・。なんて恵まれた環境なんだろう。たとえ死が隣り合わせだとしても」と日本兵はつぶやきます。また、その戦場で生き埋めにされた兵士は9人で、4を人救出しました。漫画ではなぜ、4人が生き残ることができたのかも描かれています。しかし、当時のパラオ諸島での戦死者以外で、飢餓や赤痢で死亡した兵士は4838名と記録されました。

 朝、昼、夜の3食を食べて布団で眠れることがいかに幸せかは、これらの当然のような日常を失った時に、初めて気づくのかも知れないと、天野は身を引き締めるだけです。


兵士1

小説「海に沈む空のように」第36回・襲撃は父親の担当した裁判が原因だった

前回までのあらすじ
 昭雄は「越前海岸マラソン」に出場した高田花子と井上妙子たちを応援する。二人ともゴールした後で一緒に食事に出かけ、そのまま車で福井市内まで見送ると自宅に帰った。自分を襲おうとした男が何者なのか気になっていたのだ。やがて、元刑事の井田一郎から昭雄に連絡が入る。襲撃犯は以前に昭雄の父親・雄一郎が担当した裁判の関係者だという。
 
 殺人事件を起こした犯人の谷川淳一は平成九年当時、自分が経営していた旋盤工の会社に融資を断られた荒町信用金庫の担当者・土井勇を襲うために強盗に入り職員二名を殺害し無期懲役の判決が下されたのだという。裁判官は昭雄の父親である雄一郎だった。

「弟の谷川恭二が今年のお父さんのことを書いた『週刊真実』の記事を読んだらしいです。そこで志賀さんを襲うことを計画したということですわ」
「しかし、どうして自分の居場所が分かったんですか」
「どうも、宅配業者に化けて、お宅の奥さんから住所を聞き出したようです。最近、宅急便でそちらに何か送ってきませんでしたか」

「そういえば、二週間程前に、自分が頼んだ覚えのないコピー用紙が届きました。何かの間違いだと思っていたのですが」
「そうですか、なるほど。ところでテレビは今日は、大きな事件が発生して取り上げていなかったと思いますが、ネット関連はたぶん、これからアップされると思いますわ。あと地元の新聞には明日の朝刊に掲載されますわ。しばらく、マスコミが何かとうるさいかも知れんですが」

「そ、そうですか」
 昭雄は唾を飲んだ。
「もし気になるようだったら、警備に行かせましょうか」
「いえ、大丈夫です」
 昭雄は井田の気配りの良さに感謝した。

 井田の話を聞きながら昭雄は東京の「週刊真実」契約記者の時田治夫のことを思い出した。時田は今回の福井での事件のことを知り連絡してくるだろう。
 高齢者施設でのコンサートを二週間後に控え、昭雄の身辺が慌ただしくなった。まさか身内に対して父親の下した判決を恨み、犯人の弟が自分を襲ってくるなんて想像もできないことだった。自分が怪我することなく無事に帰宅できたことに何よりも感謝した。
 
 井田の警護や福井県警の協力がなければ、今ごろ自分はどうなっていたか分からない。谷川の昭雄の父親に対する恨みは相当だったのだ。人を裁くということが、たとえ相手が犯罪を犯している悪人でも、これほどの影を落としてしまうのかと思うと身が縮まる思いがした。
 
 昭雄は翌日、午前五時過ぎには起床した。東京の家族から昭雄のスマホに連絡はなく、昨日は東京の時子にも陽花にも事件の悪い影響はなく、何も起こらずに無事に一夜が過ぎたようだった。
 スマホのメールを確認し終えた後で、台所に立つと、やかんに水を入れた後でコンロの上に乗せ火をつけた。お湯が沸いたのを確認すると、ポットに移しお茶を炒れた。朝は納豆とみそ汁をおかずに軽く朝食をすます。

 いつもより一時間早く起床した昭雄は、昨日の自分の身の回りに起こったことが気になり、テレビのスイッチを付けた。東京のテレビ局のニュースというよりも、福井の地元のニュースを見られるように、番組を選択しプッシュする。福井新聞には社会面に「越前海岸マラソン会場で暴行事件か」と見出しが付けられて、事件の詳細が報じられている。幸い被害者の名前は掲載されていなかった。
 
 昭雄は自分の名前がニュースなどで報道されることが気になっていたのだ。福井に来てまで事件に巻き込まれるのは、どうしても避けたい。ご飯を食べながらテレビのニュースを見ていたが、新聞同様に昭雄の名前が「越前海岸マラソン暴行事件」関連で報じられることはなかった。
 レース中はそれでも昭雄はレース最後まで花子たちを応援し続けた。自分が身に覚えのない人物から襲われかけるというアクシデントに見舞われながらも、この場から離れたくなかった。

 初めて日本海の海の青さに感激したのだった。この海と空の青さ中にいる自分が、とても小さく思えたのだ。福井に転勤になってから何度か福井の海に来る機会があったが、そのたびになぜか、広大な自然の中で悩み苦しんでいる自分は、ちっぽけな存在なのかと自問自答を繰り返した。自分は東京という都会に生まれ四十歳過ぎまで何の問題もなく順風満帆に人生を過ごしてきた・・・・。

 ビルで囲まれた都会の中で生活することを嫌だと感じたことなどなく、常に多くの人が行きかう山手線圏内で毎日を過ごし、仕事をしながら大学時代の仲間と音楽活動をする。そんな都会の生活が好きだった。仲間は皆、大手企業に勤務するメンバーばかりでプロのミュージシャンとしては成功していなかったが幸せな連中ばかりだ。昭雄もあの事件が発生するまでは幸せそのものだった。父親と妹を亡くしてから、全ての歯車が狂い始めたのだ。

 午前七時過ぎスーツ姿に着替えた昭雄は、アパートの玄関ドアの鍵をかけ家を出た。もう辺りを気にすることなく堂々と車に乗り会社に出勤できる。まだ七時過ぎの福井市内の道は混んでいない。ほぼいつも通りの時刻にヒューネクストのあるビルの駐車場に着いた。そのままビルの正面に入る。月曜日の早朝、昭雄は誰よりも一足早く仕事場に着く。

 いつもなら、清掃員が行きかうだけの早朝のオフィスビルだ。昭雄は中央のエレベーターに乗りオフィスのあるフロアの階数を押した。エレベーターは静かな音を鳴らしながら上に進んでいく。やがてエレベーターが止まった。昭雄はそのままオフィスのある方向に足を向けた。

「だから、もう家に戻ってきた方がいいよ」
 給湯の方から声が聞こえてきた。
「皆、待っているからさ」
「分かったさ。とにかく今は仕事中だから」
 昭雄は給湯室の近くに立った。中には清掃員らしき制服を着た人がいる。そして、もう一人、今日は若い男がいた。
犯人逮捕1

プロフィール

あまのきょういち

Author:あまのきょういち
さまざな職を経たのち、数年前から早朝から夜遅くまで、軽作業の肉体労働をしながら生活しています。毎週に「路上記」と小説「海に沈む空のように」、コラム「たにしの独り言」を連載していきます。「路上記」は主に本の紹介ですが、1日に仕事、移動を含め約14時間動き続けている時に浮かんだことを書いていることから、上記のタイトルとしました。

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